パラグアイとの試合を待つ時間、娘二人が「あれはなんだったんだろうね」と話していた。何のことかとたずねると、夕方、何か部屋の隅に置いた家具の後ろでガサゴソと大きな音がしたとのこと。上の娘が殺虫剤を隙間に吹き込んだところ、音がしなくなったので家具をどかして見たが、何もいなかったとの話である。
「ゴキブリかな」などと話をしていると、カミサンが「何の話?」と会話に割り込んできた。説明すると、「それはきっとモグラ、モグラ、昼間シロ太がとってきて遊んでいたけど、逃がしたんじゃない。だって、肝臓が見当たらないもの」と言う。
シロ太はノラから出世したネコである。その出自のせいか、モグラを捕まえて、家に持ち帰り、しばらく遊んだ後、食べてしまう。なぜか肝臓は食べず放置してあるので、いつもカミサンがブツブツ言いながら片付けている。
「まだどこかにいるんじゃない」とのことで、おそるおそる探してみたが、見つからない。
サッカーが始まったので、そんなことは忘れてしまった。隣家からも、試合を見ているような雰囲気が伝わってくる。
何かが動いたような気がして、その方を見ると、カミサンの座布団の下から何か黒いものが出ている。「あっ」と叫んで指差すと、みんな一斉にそこを見る。
ピンチでもチャンスでもない試合の状況の中、女三人の「キャ、ギャー」というおぞましい声が深夜に響きわたった。隣人は不思議に思っただろう。
T.Kubota