みなさんは「砂防」という言葉をご存じでしょうか。
土木に関心のある方ならば耳にしたことがあるかもしれませんが、一般にはあまりなじみのない言葉かもしれません。
近年、気候変動により頻発する豪雨などの自然災害により、土砂災害の発生が多くなっていますが、実は、この「砂防」により、私たちが暮らす地域や社会の安全と安心が守られているのです。

長野技研では、主に官公庁から業務を受注し、砂防に関する調査・設計業務を担っています。
このページでは、土砂災害の3つの現象「土石流・地すべり・がけ崩れ」の概要を説明し、そのうち、「土石流」に焦点をあて、「土石流」の現象、発生メカニズムや、土石流対策としての「砂防」についておはなしします。

砂防とは、その名前の通り、土の移動による災害(土砂災害)をぐための技術や施設のことをいいます。

土砂災害は周辺の道路や家屋を破壊し、ときには人命をも奪います。このような土砂災害による被害を減らすために、土砂を止める構造物を作ったり、土砂災害の危険がある地域を調査したりすることが砂防事業では行われています。

川沿いに土石流が流れ、扇状に溢れ出している写真。
平成26年(2014年)に長野県木曽郡南木曽町で発生した土石流災害
長野県ウェブサイトより画像引用
大規模な地すべりで住宅が下敷きになっている写真。
山側には明瞭な滑落崖が見られる。
昭和60年(1985年)に長野県長野市地附山で発生した地すべり災害
長野県ウェブサイトより画像引用

日本で発生する土砂災害には、土石流、地すべり、がけ崩れ(崩落)の3つがあります。
これらは流水や地下水または地震の影響を受け土砂や岩石が集団で移動する現象という点で共通していますが、発生機構や運動メカニズムが異なり、それぞれに必要な対策も異なります。 

がけ崩れ(崩落)

移動速度が速く、土塊(どかい)が崩れ落ちる(崩壊
急勾配(およそ30度以上)の斜面において、大雨などを誘因として短時間に土塊が滑落する現象です。一般にがけ崩れはすべり面(破壊面)が地表から比較的浅い位置に発生しますが、深層崩壊と呼ばれる土砂崩壊はすべり面が深く、大規模な災害となることがあります。

がけの上部が崩れ、崖上の墓地が崩落している写真。
平成27年(2015年)小海町大月川で発生したがけ崩れの崩壊上部
がけ地形が崩落して道路を覆い、通行不能になっている写真。
平成17年(2005年)松本市安曇沢渡で発生したがけ崩れ

地すべり

移動速度が遅く、断続的に斜面が移動する(滑動(かつどう)
緩勾配の斜面において、地下水位の上昇などを誘因として土塊が一体となって比較的ゆっくりと断続的に移動(滑動)する現象です。すべり面は一般に土砂崩れより深くなります。特定の地質または地質構造で(素因として)多く発生します。

山の一部がそのままスライドするようにずれ落ちている地すべりの写真
令和3年(2021年)長野市篠ノ井小松原で発生した地すべり
長野県砂防課Xより画像引用
山の大部分がまとめてすべり、特徴的な地すべり地形を呈している写真。
平成20年(2008年)宮城県栗原市で発生した荒砥沢地すべり
栗原市公式観光サイト「ぎゅぎゅっとくりはら」より画像引用

がけ崩れ・地すべり・深層崩壊は判別が難しいものもあります。(急斜面の地すべり、移動が速い地すべりなど)
また、切土盛土・構造物設置などの工事によって、斜面のバランスが崩れることもがけ崩れ・地すべりの誘因になる場合もあります。

土石流

移動速度が速く、水と巨礫(きょれき)・土砂が混合して流下(りゅうか)する(流動)。山津波鉄砲水ともいう。
急峻な谷地形において大量の水と巨礫・土砂が混合され一体となって流動する現象。がけ崩れや地すべりの土塊が流下し土石流になることもあります。

静岡県熱海市令和3年(2021年)土石流
国土地理院Youtube動画より

長野技研では、これらの土砂災害それぞれに対して必要な施設の調査・設計をしていますが、ここでは「土石流」対策についておはなしします。

土石流は

土砂と水の混合物が重力の作用を受けて一種の連続流体であるかのように流動する現象で、土砂の粒子同士の隙間が水またはスラリーで満たされているために高い流動性を発揮する現象

引用:高橋 保 著「地質・砂防・土木技術者/研究者のための 土石流の機構と対策 」p17

と定義できます。

スラリー微細粒子と水が一体になったもの

固体と気体、固体と液体のように相の異なる混合物のながれを混相流といいますが、土石流はこの混相流のうちの一形態であり、水(液体)と土砂・石礫(固体)からなる固・液混相流ということです。

表:自然界における混相流

  現象 固体成分 流動媒体
固・気混相流 なだれ 空気
土石なだれ 土砂礫 空気
火砕流 火山噴出物 空気
固・液混相流 土石流 土砂礫
浮遊砂粒 土砂礫

自然界で発生する混相流のうち土石なだれと火砕流は土石流と同じように大量の土石・岩塊を移動させる現象ですが、流動媒体として水ではなく空気が含まれている点で土石流と異なります。このように流動媒体としての水の存在が土石流の特徴であり、水の浮力により高い流動性を持つため土石なだれと比べるとより緩い勾配、より遠くまで到達します。

さらに土石流の中でも石礫型土石流泥流型土石流の2つに大きく分類されます。

石礫型

大きな石や礫の含有率が高い土石流です。巨礫や流木等が先頭に集中する「土石流フロント部」を形成する特徴があり、慣性力が大きいことから、高い直進性を持ちます。流れのイメージとしては、オイルのような粘性が高い流体に似ています。長野県設計基準では砂礫型土石流と表記されています。

泥流型

細かい砂やシルトの含有率が高い土石流です。先端部に段波(盛り上がり)を持ちますが巨礫や流木が集中する「土石流フロント部」は形成されません。石礫型土石流より流下速度が速く、より緩い勾配まで到達します。流れのイメージとしては石礫型より水っぽい流体です。粒が細かな火山灰が豊富に堆積している火山周辺で多く発生します。また降雨時に発生するだけでなく、火山の熱により生じた雪解け水と火山灰が混合して発生する「融雪型火山泥流」として見られることもあります。

シルト

土粒子のうち、粒径が砂より細かく、粘土より粗いもの(粒径0.005mm~0.075mm)。日本語では「沈泥」と訳されます。

土粒子の粒径区分

土は大小さまざまな土粒子から構成されており、その土粒子は粒径(粒の大きさ)によって区分され、名前が付けられています。
細かいものから「粘土→シルト→砂→礫」と分けられ、粘土とシルトをまとめて「細粒分」、砂と礫をまとめて「粗粒分」と呼びます。

長野県設計基準では次のように分類されています。

石礫型土石流と泥流型土石流それぞれの特徴を示した表
長野県設計基準 9-1-23 より引用

このページでは、一般の山地で起こりやすい「石礫型土石流」について主に説明していきます。

土石流がどのように発生し、どのように運動するかを説明していきます。
まず発生について説明します。土石流が発生するには土砂礫と水が同時に大量に存在する必要があり、それらがどのように谷底に供給されるかによって、土石流の発生メカニズムは次の3つに大別されます。

  • ケース1)谷底の堆積土砂と外部からの水が混合して発生する土石流
  • ケース2)土砂崩れや地すべりによる崩壊土砂が、それ自身が含んでいた水や外部の水と混合して発生する土石流
  • ケース3)土砂崩れや地すべりによって形成された天然ダムの決壊によって発生する土石流

これら3つのケースそれぞれについて説明します。

ケース1)谷底の堆積土砂と水が混合して発生する土石流

ステップ1:
普段は水があまり流れていない急峻な谷底では、日ごろから側岸山腹浸食・崩壊及び落石等で土砂が供給され、厚く堆積していきます(渓床堆積物)。

ステップ2:
大雨が降ると谷底に水が集まり地下水位が上昇していきます。さらに降雨が続くと表面流が現れ表面流水深が増加していきます。
表面流水深が小さい段階では、渓床堆積物の細粒分(粒径の細かい土砂)のみが表面流の流体力により輸送されます。

ステップ3:
表面流水深がさらに増大し渓床堆積物の代表粒径程度以上になると、堆積層が全体的に集合流動を始め流水と混合して土石流が発生します。

ステップ1 山の斜面から土砂が供給され、谷底に堆積する(渓床堆積物)。

山地部の谷地形において、斜面の崩壊や落石により谷底に土砂が堆積している図。
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谷底を流れ方向に切断した断面図 その1
土砂の供給により堆積層が形成されている。
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ステップ2 大雨が続くと堆積層表面に水が流れ始め、堆積物中の細かい砂が流されていく。

堆積層の上に表面流が現れ、堆積層中の細粒分が水の力で流されていく様子の断面図
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ステップ3 さらに大雨が続くと水位が上昇し、堆積層が全体的に流動し始めて土石流となる。

山地部の谷地形において、土石流が発生し流下している図
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谷底を流れ方向に切断した断面図 その2
さらに表面流の水深が増え、堆積層の土砂と水が混合されて土石流となっている。
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ケース2)土砂崩れや地すべりによる崩壊土砂と水が混合して発生する土石流

ステップ1:
大雨や大きな地震が発生すると、山腹(山の中腹)や源頭部(谷の最上流部)等、山の斜面が不安定になります。

ステップ2:
不安定な斜面にさらに多量の水が供給されると、土砂崩れや地すべりが発生します。
土砂崩れや地すべりが発生すると大量の土砂(崩壊土塊)と、土塊自身に含まれていた水が谷底に供給されます。

ステップ3:
谷底に供給された崩壊土塊がバラバラにほぐれ、土塊に含まれていた水や地表水、地下水と混合することで土石流が発生します。

ステップ1 大雨や地震により山の斜面が不安定になる。

急峻な谷地形において、大雨や地震により山腹や源頭部が不安定になっている図
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ステップ2、3 不安定な斜面が崩壊しそのまま土石流になる。

不安定化していた斜面にさらに多量の水が供給されることで発生した土砂崩れや地すべりが、そのまま土石流に変化し流れている図
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ケース3)土砂崩れや地すべりによって形成された天然ダムの決壊による土石流

ステップ1:
ケース2)ステップ3で崩壊土塊が谷底に供給された際に、十分な量の水が供給されない場合や谷底の勾配が緩い場合には土塊は谷底にとどまり、河道閉塞して天然ダムを形成します。この他にも、流木による河道閉塞など天然ダムは様々な要因で生成されます。

ステップ2:
天然ダムは谷に集まる水を一時的にせき止めますが、水位の上昇・越水により決壊します。

ステップ3:
ダムの堤体だった土砂とせき止められていた大量の水が混合され土石流が発生します。

ステップ1、ステップ2 崩壊土砂や流木により河道が閉塞され天然ダムが生成。大量の水と土砂をせき止める。

山腹や源頭部から供給された土砂が谷底にとどまり、河道を塞いで天然ダムを形成している図
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形成された天然ダムが水をせき止める様子を示す断面図
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ステップ3 天然ダムが決壊するとせき止められていた水と土砂が一気に放出され大規模な土石流となる。

河道を塞いでいた天然ダムが決壊し、ダム堤体の土砂と水が混合して土石流が発生する図
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形成された天然ダムが決壊し土石流が発生する様子を示す断面図
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次に土石流の運動について説明します。
土石流(集合流動)の運動は、谷底の勾配(渓床勾配)と密接に関係しています。
発生した土石流は渓床勾配と土石流濃度に応じて谷底の洗堀堆積を行いながら流下していき、勾配が緩いところに到達すると停止します。土石流の規模や材料により運動の形態は異なりますが、国土交通省砂防部「砂防基本計画策定指針」では一般的な値として勾配ごとに土砂移動形態が区分されています。

渓床の勾配ごとに区間名が異なっていることを示す図。
国土交通省国土技術政策総合研究所発行
「砂防基本計画策定指針(土石流・流木対策編)解説 」 9pより引用

土石流発生区間

渓床勾配が概ね15°以上の区間。この区間で前述した要因により土石流が発生します。この区間では土石流の流下と共に谷底の堆積土が削られ土石流濃度が上昇します。

土石流流下区間

渓床勾配が概ね10°~20°の区間。この区間では発生した土石流が流下していきます。発生区間・堆積区間と重複しており、それぞれ発生流下区間流下堆積区間と呼ばれます。

[発生流下区間]

渓床と渓岸を浸食し土石流の規模を増加させながら流下します。

[流下堆積区間]

土石流平衡濃度よりも過剰となる分の土砂を渓床に堆積させながら流下します。

土石流堆積区間

渓床勾配が概ね15°を下回る区間。この区間では土石流が集合流動を維持できなくなり、自然に土砂と水の分離が進み堆積が進みます(土石流濃度が減少する)。

掃流区間

渓床勾配が概ね2°までに土石流(水と土砂が混合したものの流れ)が治まり、掃流(水の流れによって砂や礫が移動する流れ)となります。

この渓床勾配区分によって土石流の運動形態が異なるため、砂防施設を設計する際には現場がどの区間に位置しているかを確認し、それぞれの区間に適した対策工とする必要があります。

砂防には水系砂防と地先砂防という2つの考え方があります。

水系砂防

水系砂防は源頭部から河口までの河川の機能と環境の保全を図るため、流域(水系)全体にわたって土砂の生産と流出・移動の調整を行う砂防です。つまり、上流域(山地)において斜面の崩壊などで流出する土砂を抑制・調整し、下流河川へ適正量の土砂を流すことで河床湖沼・海岸の過剰な土砂堆積、及びそれに伴う災害等を防止することを目的としています。
水系基準点及び許容流出土砂量(適正量の土砂)を設定し、基準点より下流へ許容流出土砂量を流送できるように、上流域の砂防施設を計画します。

水系砂防実施前

山地において崩壊した土砂が下流河川に流出し、勾配が緩い川底に堆積している図
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・山地において不安定土砂が崩壊し下流河川に流出している

・流出した土砂が勾配が緩やかな川底に堆積する
水を流せる断面が減少し河川氾濫のリスク

水系砂防実施後

山地部で砂防施設が整備されることで、下流に流れる土砂量が調整され、下流河川の河床が安定している図
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・砂防施設の設置によって下流への土砂の流出を調整する

・適正量の土砂供給により河床が安定する
水を流せる断面が確保され河川氾濫のリスク

地先砂防

それに対して地先砂防というのは、特定の保全対象を土砂災害(主に土石流)から守る砂防です。急峻な谷地形の出口にある人家や山間の集落など、土砂災害により被害を受ける可能性がある区域の中の建物や施設を保全対象としています。土石流基準点を設定し、基準点より上流域から流出が想定される土砂や流木は、基準点より下流へ流出させない(整備率100%)ことを原則として砂防施設を計画します。

地先砂防実施前

山地で発生した土石流が谷出口の人家を巻き込んでいる図
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地先砂防実施後

砂防施設の設置により、発生した土石流が受け止められ、谷出口の人家が保全されている図
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前述の水系砂防地先砂防という従来の砂防の考え方に加えて、近年では水系全体の水災害対策として「流域治水」という考え方が主流となっています。
流域治水とは、その河川流域全体に関わるあらゆる関係者(河川管理者、国、都道府県、市町村、住民等)が協働して流域全体で水災害を防ぎ、被害を軽減させる治水対策です。流域治水では水災害対策を「①氾濫をできるだけ防ぐ・減らすための対策」「②被害対象を減少させるための対策」「③被害の軽減、早期復旧・復興のための対策」の3つに分け、それぞれに対して各関係者間で協働して対策を行っています。
砂防事業も水災害対策のための土砂管理と土砂・洪水氾濫対策として流域治水に含まれていますが、さらに流域治水『砂防』として、土砂災害対策についても同様の考え方で取り組んでいます。

流域治水「砂防」について説明された国土交通省のスライド
国土交通省HPより引用
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土石流が発生したときには、崩壊した斜面や土石流が通過する谷底に生えていた樹木・倒木が流木となり土砂とともに流れます。流木は河道狭窄部や屈曲部、狭い橋脚間や暗渠(地中に埋められた水路)部を閉塞させ、さらなる土石流や洪水氾濫を助長します。

実際に、この流木の影響による土石流の氾濫などで周辺の家屋・人命が大きな被害を受ける災害が発生しており、現在では、土石流対策の設備を設計する際には同時に流木対策も行うことが求められています。

砂防えん堤が大量の流木を捕捉している写真。(正面)
砂防えん堤が大量の流木を捕捉している写真。(堆砂敷)

飯山市井出川において桑名川砂防堰堤が流木を捕捉している様子 撮影:2017年6月6日

普段は水が流れていないが大雨が降った時だけ流水が現れる流域面積の小さな谷地形を無流水渓流といいます。

国土交通省が作成した「砂防基本計画策定指針(土石流・流木対策編)解説 」では「無流水渓流」を次のように定義しています。

  • 流路が不明瞭で常時流水がなく、平常時の土砂移動が想定されない渓流。
  • 基準点上流の渓床勾配が10°程度以上で流域全体が土石流発生・流下区間。

無流水渓流では谷出口のすぐ下まで宅地開発が進んでいることが多く、土石流が発生したときに人的被害が発生する可能性が高くなっています。
そのため、無流水渓流における砂防整備を急ぐ必要があるのですが、従来の設計基準による砂防施設の規模では施工が困難であることや、合理的でないことがありました。
そこで現在は無流水渓流対策に関する技術基準も整備されてきています。

  • 無流水渓流で想定される土石流の規模に応じて砂防施設の厚みや規模を縮小し材料や掘削の量を減らす
  • 施工性の良好な柔構造物(ワイヤーやネット)や小型鋼製スリットなどの土石流・流木対策工の活用

など、無流水渓流特有の現地状況にあった合理的な計画の策定が進められています。

砂防事業における代表的な構造物が砂防堰堤(えん堤)です。
砂防堰堤は砂防ダムとも呼ばれ、土石流捕捉(受け止める)効果のほかに山脚を固定する効果や渓流の勾配を緩やかにする効果を持ち、土砂災害から下流の施設・人命を守っています。

砂防堰堤の効果

砂防堰堤の捕捉効果を示した図 土石流をコンクリートのダムがキャッチしている。
砂防堰堤の抑制効果を示した図 砂防堰堤で補足した土砂が堆積することで不安定土砂が抑えられている。
砂防堰堤の勾配緩和効果を示した図 砂防堰堤を一定の感覚で配置することで、勾配が緩やかになり流速・浸食力が低下する。
砂防堰堤の山脚固定効果を示した図 渓流の谷底付近(山脚)は流水によって浸食されていくが、砂防堰堤の設置によって山脚が固定されて渓流の斜面が安定する。

※それぞれクリックすると拡大します

砂防堰堤には上のイメージ図のように谷を安定させて土石流の発生と拡大を抑制する効果と、発生した土石流を受け止める(捕捉する)効果があります。
後で詳しく説明しますが、砂防堰堤の形式によって得意な効果が異なっており、現場で必要な効果に適した砂防堰堤の形式を選択することが重要となります。

渓床勾配(けいしょうこうばい)区分による配置施設例

砂防施設の種類の前に渓床勾配により施設配置の構造物が異なることからその配置計画について説明します。
前述したように、渓床(谷底)の勾配によって土石流が発生する区間、流れていく区間、堆積する区間に分かれており、それぞれの区間で必要とされる機能によって配置される砂防施設や砂防堰堤の形式が異なります。

渓床の勾配ごとに区間名が異なっていることを示す図。
国土交通省国土技術政策総合研究所発行
「砂防基本計画策定指針(土石流・流木対策編)解説 」 9pより引用
渓床の勾配ごとの区間名(土石流発生区間・土石流堆積区間・掃流区間等)と、それぞれの区間における土石流移動形態及び配置施設に必要とされる機能、配置施設例を示す表
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砂防堰堤の種類

不透過型砂防堰堤

配置区間

主に土石流発生区間、発生・流下区間、流下・堆積区間

機能効果

山脚固定効果と勾配緩和効果による土石流・流木の発生抑制を主目的として設置されます。捕捉効果は透過型と比較して少なく、特に流木に対しては透過型に比べて捕捉効果が少ない特徴があります。

土砂 流木 山脚固定 勾配緩和
捕捉 抑制 捕捉 抑制

不透過型堰堤は流木捕捉効率が劣るため、流木捕捉工と併用する場合が多いです。このため最近では下写真のような流木捕捉工をもたない不透過型堰堤は流域の小さな地先砂防では用いられない傾向にあります。

不透過型砂防堰堤の写真
荒畦沢砂防えん堤(松本市)
不透過型砂防堰堤の写真その2
ニゴリ沢砂防堰堤(松本市)

不透過型堰堤の土石流捕捉形態

不透過型堰堤の土石流・流木捕捉効果の考え方の断面図
※クリックすると拡大します

透過型砂防堰堤

配置区間

土石流流下・堆積区間、掃流区間(堰上げ型)

機能効果

普段は透過部により流水と土砂を下流に流下させますが、土石流時には土石流先頭の巨礫により鋼製スリット部が閉塞することで、後続の土石流を捕捉します。鋼製スリット部により流木も捕捉可能です。また、落差が小さく河床の連続性が保たれることで水生生物の往来を妨げにくい形式です。

土砂 流木 山脚固定 勾配緩和
捕捉 抑制 捕捉 抑制
×

※流出する粒径が細かい場合や勾配が緩く土砂濃度が低いことが想定される場合には、鋼製スリット透過型堰堤では土石流がスリットの隙間を通り抜けてしまう可能性があるため、部分透過型の採用を検討します。

透過型砂防堰堤の写真
鋼製のスリットが透過部に用いられている。
黒川砂防ダム(松本市)
透過型砂防堰堤の3Dモデル
東山砂防堰堤(中野市)

透過型堰堤の土石流捕捉形態

透過型堰堤の土石流・流木捕捉効果の考え方の断面図
※クリックすると拡大します

部分透過型砂防堰堤

配置区間

・流木捕捉能力が求められる土石流発生区間・発生流下区間

中小出水時に巨礫を含まない土砂が流下してくると想定される土石流流下堆積区間

機能効果

不透過型堰堤の山脚固定及び抑制効果と、透過型堰堤の捕捉効果の両方を期待できます。
不透過部により中小出水時の巨礫を含まない土砂も捕捉可能です。

土砂 流木 山脚固定 勾配緩和
捕捉 抑制 捕捉 抑制
部分透過型砂防堰堤の写真
大林沢砂防堰堤(生坂村)
部分透過型砂防堰堤の写真その2
小田井沢川砂防堰堤(岡谷市)

大林沢砂防堰堤のスリットは、流木を捕捉するために設けたもの(流木止め付き不透過型堰堤)です。渓床礫径が小さいため、スリットで土砂を捕捉することは期待していません。

小田井沢川砂防堰堤は、堰堤の背後に大きな不安定土塊があったため、これを抑制するために部分透過型堰堤となっています。こちらのスリットは土砂も捕捉する設計になっています。

部分透過型堰堤の土石流捕捉形態

部分透過型堰堤の土石流・流木捕捉効果の考え方の断面図
※クリックすると拡大します

砂防堰堤以外の砂防施設の種類

堆積工(たいせきこう)

配置区間

土石流堆積区間

機能効果

流路の拡幅・勾配緩和により土砂輸送能力を低下させ、安全に土砂を堆積(捕捉)させます。

土砂 流木 山脚固定 勾配緩和
捕捉 抑制 捕捉 抑制
×
堆積工の写真
母沢川下流側土石流堆積工(富士見町)
堆積工の写真その2
母沢川上流側土石流堆積工(富士見町)

比較的大きな流域では堆積区間になると、渓流両側の斜面が緩く低い場合や遠く離れている場合が多いです。このような状況では透過型・不透過型の砂防堰堤より渓床を掘り下げて造る堆積工が適しています。

流木捕捉工(流木止め)

配置区間

土石流発生流下区間・土石流流下堆積区間
流木捕捉能力が乏しい不透過型砂防堰堤ではすぐ下流に副堰堤として配置される場合や、本堤に設けて部分透過型堰堤とする場合もあります。

機能効果

流木を捕捉します。鋼製スリットを用いたものが多いです。

土砂 流木 山脚固定 勾配緩和
捕捉 抑制 捕捉 抑制

流木のみを捕捉する目的の単独の堰堤は、透過型堰堤に似ていますが、流木のみ捕捉するため土石流に比べてスリット間隔がおおきくなります。

不透過型堰堤の下流に副堰堤として流木捕捉工が設置されている写真
千石沢1砂防堰堤(松本市)
不透過型砂防堰堤の下流に、副堰堤として流木捕捉工が設置されています。

床固工(とこがためこう)

配置区間

土石流発生区間・発生流下区間

機能効果

土石流・流木の発生抑制(河床洗堀の防止による山脚固定・勾配緩和)
不透過型堰堤とほぼ同じ形ですが、一般に床固工の落差部は5m以下と不透過型砂防堰堤よりも小さく、狭い間隔で連続的に配置されることが多いです。

土砂 流木 山脚固定 勾配緩和
捕捉 抑制 捕捉 抑制
× ×

その他の土石流対策施設の種類

渓流保全工(けいりゅうほぜんこう)

山間部の平地や谷出口の渓流において、渓岸・渓床浸食を防止することで土砂の生産・流出を抑制するための施設です。

床固工帯工護岸工水制工などの組み合わせからなります。

土砂 流木 山脚固定 勾配緩和
捕捉 抑制 捕捉 抑制
× ×

導流堤(どうりゅうてい)

土石流の流向を制御し、安全な場所へ導流します。

現地条件により掘り込み方式にできない場合は導流堤を設置します。

土砂 流木 山脚固定 勾配緩和
捕捉 抑制 捕捉 抑制
× ×

柔構造物(じゅうこうぞうぶつ)

土石流の衝撃力をワイヤーやロープなどクッション性のある構造物で吸収して捕捉する施設です。

剛構造砂防堰堤と比較して施工性が良く、地山や河床掘削なども抑えることができます。

災害時の応急対策としても用いられていますが、最近は無流水渓流の土石流対策にも用いられています。

土砂 流木 山脚固定 勾配緩和
捕捉 抑制 捕捉 抑制
× ×

柔構造物の例(ワイヤネット)※クリックすると拡大します

ワイヤネットの説明図
両岸にアンカーを設置してワイヤーをはり、ワイヤーから金属製のリングを連ねたネットをつるしている。
ワイヤネットの写真
両岸にアンカーを設置してワイヤーをはり、ワイヤーから金属製のリングを連ねたネットをつるしている。

柔構造物工法研究会HPより画像引用

ここに4つのダムがあります。

砂防ダム

c.

砂防ダムの写真その1

d.

砂防ダムの写真その2

一見どれも同じような構造物に見えますが、a、bの構造物は治山ダム(堰堤)とよばれ、砂防ダム(堰堤)とは別の役割をもちます。
治山ダムも砂防ダムも土砂災害を防止するというゴールは同じですが、それに対するアプローチの仕方が異なります。

治山ダム

治山ダムは森林法に基づき整備されるもので、治山ダムの設置により上流の森林・山を健全な状態に維持することで、土砂の生産流出を抑制し、間接的に土砂災害から人家や人命を守ることが役割となっています。こちらは、上流の森林・山を保全対象とすることで、同時に下流の施設・人命も守っているといえます。

砂防ダム

砂防ダムは砂防法に基づき整備されるもので、土砂の生産・流出を抑制する効果もありますが、一番の役割としては堰堤本体で直接的に土石流を止めて人家や人命を守ることとなります。つまり下流の施設・人命を保全対象としています。

そのため、砂防ダムは上流側に土砂が堆積して必要な土石流捕捉量が得られなくなった際に、土砂を撤去し必要な捕捉量を確保することがありますが、治山ダムは上流側に土砂が堆積し健全な森林になることで効果を発揮できるので基本的には土砂の撤去は行われません。(近年、治山堰堤も流木対策として鋼製スリット施設を設置する事例があり、その場合には流木や土砂の撤去が行われるようです。)

治山ダムにより背面の森林が健全に保たれている写真
砂防ダムの背面に土石流をキャッチするための空間が確保されている写真

土砂災害が発生するおそれがある土地は、法律によって指定され様々な行為を制限されることがあります。
土石流に関連する法律としては次の二つがあります。

土石流の発生源区域において、対策施設整備を行うとともに、土石流が発生しやすくなるような行為を制限する法律

砂防施設を要する又は治水上砂防のために一定の行為を禁止若しくは制限するべき土地について国土交通大臣が砂防指定地に指定します。
都道府県知事が管理することとされており、都道府県の条例によって管理規定が定められます。
指定地内では建築物の新築・改築や立木の伐採、水の放流、土の掘削盛土など、治水砂防上影響のある行為を行う際に県知事の許可が必要になります。

土砂災害による被害が発生する区域において、人命被害を防ぐためにソフト対策を行う法律

土砂災害のおそれのある区域について基礎調査を実施し、危険な区域について都道府県知事が次の二つの区域を指定します。

[土砂災害警戒区域(イエローゾーン)]

土砂災害のおそれがある区域について指定され、住民への危険の周知・警戒避難体制の整備(平常時における土砂災害対策啓蒙活動)が行われます。

[土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)]

土砂災害警戒区域のうち、建築物に損壊が生じ、住民等に著しい危害が生じるおそれがある区域について指定されます。
特別警戒区域内では、学校や住宅宅地分譲など特定の開発行為が許可制になる、人が住む建築物について土砂の崩壊に対して安全な構造を確保するよう構造規制が設けられるなどの制限が課せられます。
また、砂防施設の設置によるレッドゾーンの解消や、すでに特別警戒区域で暮らしている住民には、安全な場所への移転勧告やその支援措置が行われます。

津波が海外でも「Tsunami」と呼ばれるように、砂防という言葉も海外で「SABO」※1と呼ばれています。このように日本語がそのまま世界の共通語になっているのは、日本の砂防技術が優れていること、日本が海外のいろいろな国で砂防の技術指導をしていること、砂防にあたる適当なことばが外国語にはないこと、などが理由のようです。きっかけは、昭和26年(1951年)アメリカのウォルター・C・ローダーミルク氏(Walter C. Lowdermilk)が日本の砂防事業を視察した際、後述する赤木正雄博士と懇談し、「SABO」を世界の共通語にしたいと赤木博士に伝え、同年(昭和26年)開催されたブリュッセルの国際水文学会で提案したことが始まりだそうです。

日本では明治時代には砂防法が制定されており、土砂災害に対する経験と技術を培ってきました。砂防法が制定される当時、内務省※2に技術顧問として雇われ大活躍していたオランダ人技師のヨハネス・デ・レーケ氏は日本の常願寺川を視察した際「川というよりは滝っていうべきだよね」というニュアンスの言葉を残したとされています。こんな言葉が残されるほどに、日本の川は世界の川に比べ急流であり、土砂災害が起きやすい地形なのです。
このような地形の中で土砂災害を防ぐための過去の土木技術者達の努力が、世界で「SABO」と呼ばれるほどに日本の砂防技術を磨き上げたのかもしれません。

※1 赤木正雄博士著の砂防一路には「Schabo(シャボー)」と表記されている。

※2 内務省:昭和22年(1947年)廃止 現在の国土交通省、厚生労働省、総務省、警察庁、消防庁、都道府県知事などが担う行政機能を広く掌握していた。

世界の河川と比べて日本の河川の縦断勾配が急なことを示すグラフ。
国土交通省HP 河川データブック2023 2-2-1 より引用
ヨハネス・デレーケの顔写真
Johannis de Rijke
1842年~1913年

日本において「砂防の父」や「砂防の神様」と称されるほどに、日本の砂防技術の発展に寄与した人物が赤木正雄博士(1887年~1972年)です。
赤木博士は明治20年(1887年)に兵庫県で生まれ、第一高等学校、東京帝国大学農科大学林学科に進み、内務省へ入省、その後、砂防技術を磨くためのオーストリア留学を経て全国の砂防事業を統括する立場となりました。各地の砂防工事を指揮しながら、オーストリアで学んだ渓流砂防等の考え方・技術を日本に普及させる活動に尽力し、いままで画一的だった砂防計画を渓流毎の特性に応じたものに改めた砂防工事全体計画の策定や、国民の砂防への認知・理解を増やすための砂防協会の設立など、現在の砂防の根幹を築きました。内務省退官後は国会議員も務め、昭和47年(1971年)には土木技術者として二人目の文化勲章受章者となっています。
生涯を砂防に捧げた赤木博士をたたえ、砂防会館前(東京都千代田区)と故郷である豊岡市円山川畔には赤木博士の銅像が建てられています。砂防会館前の銅像の周りには砂防にゆかりの深い河原の石が全国都道府県から供出され配置されており、長野県からは山ノ内町の赤木落しという谷の石が供出されています。山ノ内町における夜間瀬川流域の砂防工事設計・施工に尽力された赤木博士が現場に訪れた際に谷に転落して腕に怪我をしたものの、唐沢俊樹内務省土木局長を案内するために白布で腕をつるしたまま日本アルプスを縦走したという逸話から、この場所が地元住民から赤木落しと呼ばれるようになり、赤木博士思い出の場所としてその谷の石が供出されたそうです。

赤木正雄博士の顔写真
赤木正雄
1887年~1972年
杖をもって立つ赤木正雄博士の像
周囲には各地から供出された石が並べられている。
赤木正雄像(砂防会館前)